③婚活は少子化と非婚化の最前線   -女性の選択、理論とその実際-

婚活にまつわる研究・言説をクソ真面目に考察します。

第3章 低所得でも既婚・恋人あり男性は大勢いる

所得が低くても既婚・恋愛経験ありの男性は多い

 

 第3章では、既婚・恋愛経験のある男性の実数(推計値)に着目する。そして、その推計を手掛かりに、通説を検討する。通説では、2030代の男性を対象に、年収階層別の既婚率・恋愛経験率の割合を検証し、その結果、既婚率・恋愛の経験は、年収に比例することが示されている。この結果からは、次のようなイメージが思い浮かぶ。

 2030代の男性は、先の山田氏の分類に従うと、既婚・恋愛経験ありと未婚・恋愛経験なしの二つのグループに分けることができる。この二つのグループのうち、ここでは、既婚・恋愛経験あり男性のグループを考える。このグループ内において、男性の年収別の人数の割合は、どのようになるのか。おそらく、所得の低い男性の占める割合は低く、所得層が高くなるにつれ、そうした男性の総数に占める割合も増加するのではないか。通説からは、こうした印象を抱く。

 しかし、実際には、通説およびそれらを前提とした言説では、この印象を検証したものは皆無である。一般論として、何らかの対象や現象の中で特定の事象の多少を検証する場合は、占有割合(%)だけではなく、実際の数量(実数)も視野に入れておく必要があると考えられる。なぜなら、多くの社会現象には、占有率は高いが数量は少ないというケースや、少数だが影響力が大きい特殊事象がつきものだからである。どちらか一方のみの検証では、論じる対象の全体像をつかみきれず、矛盾した結論を導いてしまうおそれがある。少なくとも、真理の探究を要する学術的研究では、こうしたリスクは回避されてしかるべきであろう。

 未婚化現象についての通説では、男性の既婚・恋愛経験の有無の割合に焦点化されている。その検証不足を補うという意味から、既婚・恋愛経験のある男性の人数について検討する。

 

  • 3-1 年収400万円未満の30歳代男性はどのくらいの割合か
  • 3-2 年収400万円未満の30歳代・既婚男性は何人くらいいるのか
  • 3-3 年収400万円未満の30歳代男性・既婚者もしくは恋人ありはどのくらいの割合か
  • 3-4 非正規雇用の既婚男性は何人くらいいるのか
  • 3-5 夫婦ともに非正規雇用者の世帯数はどのくらいか
  • 3-6 考察①:年収400万円未満や非正規雇用である既婚・恋人あり男性は結構いる
  • 3-7 考察②:4人に3人をどう見るか
  • 3-8 結論

 

3-1 年収400万円未満は30歳代男性の割合か

年収400万円未満は30歳代男性の割合か

 

 まず、30歳代の男性について、所得階層別の人数・割合を推計する。平成22年(2010年)に実施された国勢調査による男女別基準人口によると、30代の男性は、おおよそ927万人である。また、平成19年(2007年)に公表された厚生労働省の賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況によると、男性の所得層の階級別割合は以下のとおりとなる。おおよそ、300万円未満が55.6%、300~400万円未満が26.6%、400~500万円未満が11.9%、500~600万円未満が3%、600万円以上が3.2%という割合である。
この2つのデータをもちい、30代の男性が各所得階層別に何人くらいいるのか算出すると、その推計結果は、図3-1のようになる。
 この推計によると、年収300万円未満の30歳代男性は約516万人で全体の56%を占め、年収300~400万円未満の30歳代男性は、約247万人で全体の27%を占める。合計すると、年収400万円を下回る男性の総数は約762万人にのぼり、同年代全体における割合は約82%にもなる。 

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3-2 年収400万円未満の30歳代・既婚男性は何人くらいいるのか

年収400万円未満の30歳代・既婚男性は何人くらいいるのか

 

 さらに、賃金階級別の男性について各階層の既婚者・恋人ありの人数を算出する。所得階層別の既婚者・恋人あり男性の割合は、前章で概説したとおり、既に山田氏が「モテる構造」でデータを提示している。図2-2「30代男性の年収別婚姻・交際状況」がそれである。このデータを基準とし、3-1で試算した所得階層別の男性について既婚者・恋人ありの人数を計算する。
 例えば、年収300万円未満の30歳代男性は、3-1の試算によると約515万人である。また、山田氏および内閣府によると、2-2のデータより、年収300万円未満の30代男性において既婚・恋人ありの割合は既婚9.3%、恋人あり18.4%とされる。この2つの数値から単純計算すると、年収300万円未満の30歳代男性の既婚者数は約48万人(515万人の9.3%)、恋人ありの男性の人数は約95万人(515万人の18.4%)となる。同様に、賃金階層別の男性について、階層別の割合をもちいて、その人数を算出した結果が表3-2である。
 表3-2からは、既婚男性の数について、年収300万円未満が約48万人、年収300~400万円未満が約65万人いることがわかる。30歳代の既婚男性者数は、約167万人である。そのうち年収400万円未満の既婚者は、約113万人である。これは30歳代の既婚男性総数の実に68%にのぼる。
 さらに、既婚者と恋人ありの30歳代男性の数をみてみよう。既婚者と恋人ありの30歳代男性の数は、年収300万円未満は約143万人、年収300~400万円は約116万、合計では約259万人となる。同条件の30歳代男性の総数は348万人であるから、年収400万円未満の既婚者と恋人ありの30歳代男性は74.4%を占める。 

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3-3 年収400万円未満の30歳代男性・既婚者もしくは恋人ありは何%か

年収400万円未満の30歳代男性・既婚者もしくは恋人ありは何%か

 

 これを分かりやすく整理したのが図3-2である。既婚者、もしくは恋人ありの30歳代男性を賃金階層別の割合を円グラフで示してみた。
 30歳代の既婚・恋人ありの男性全体に対して、年収300万円未満の男性は約41%、年収300~400万円未満の男性は約34%になる。これらを合わせると、年収400万円未満で既婚者、もしくは恋人ありの男性は、賃金階層全体での同条件下にある男性の実に75%を占める。
 

 

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3-4 非正規雇用の既婚男性は何人くらいいるのか

正規雇用の既婚男性はどのくらいいるのか

 

 未婚化・非婚化現象において男性の所得が要因として論じられる際、男性の低所得化の原因とされるのが非正規雇用に従事する男性の増加である。「失われた90年代」と称されるように、90年代中~後半には長期的不況の影響を受け、正規雇用に就けない若者が多く存在した。そうした若者は、やむなく非正規雇用者となった。そして、正規雇用に就く機会を逸したまま、20歳代後半~30歳代を迎え、非正規雇用による賃金水準の低さから結婚できないまま今日に至っている。言うまでもなく、非正規雇用は、正規雇用と比べ、昇給や賞与において不利な条件で働くケースが大半であり、低所得者層に固定されてしまう。こうしたルートをたどった男性が多く存在し、低所得者となり未婚率を上昇させている。こうした背景には、日本の新卒一括採用や硬直化した労働市場、産業構造の変化等、様々な要因を指摘できるが、それは本論のテーマからは逸れる為、詳述は省略する。

 つまり、90年代にはじまった長期的不況が、当時の若者の非正規雇用を増やし、低所得者層を増大させた。そして、非正規雇用低所得者層として固定化された青年男性は、低所得であるがゆえに未婚状態にある。収入の低い男性ほど、未婚率が高く、女性との交際経験も少ないという通説は、非正規雇用として働く男性に具現化されていると言える。以上が一般的な見解である。

 では、そうした非正規雇用に従事する男性はどのくらいいるのだろうか。その総数、既婚・恋人がいる男性と未婚・恋人がいない男性、それらの人数について、先ほどと同じように推計してみたい。

  

正規雇用の既婚男性は約50万人

 

 非正規雇用に従事する男性の既婚者数についての推計は次のとおりである。対象とする男性の年齢は、2039歳とする。一般的に、恋愛や結婚に適した年齢と考えられることから20代・30代を対象とした。推計にもちいる基礎資料は、先と同じように公的調査データを使用する。基本資料となるデータの引用元については、表3-2の注釈を参照していただきたい。

 まず、労働力人口の総数をもとにして、2030歳代、それぞれ5歳刻みで年齢階層別の男性の人数を算出する。次に、非正規雇用率をもちいて、各年齢階層別の非正規雇用にある男性の人数を算出する。そうして求めた非正規雇用者数について、非正規雇用者の既婚率をあてはめ、各年齢層の既婚者数を算出する。こうした手順で作成したのが表3-2である。

3-2によると、2039歳の男性で非正規雇用者であり、かつ、既婚者であるものは、20歳代で約16万人、30歳代で約35万人となる。概算で、結婚に適した年齢層にある男性の非正規雇用・既婚者数は、50万人を超える。

 

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3-5 夫婦ともに非正規雇用者の世帯数はどのくらいか

夫婦ともに非正規雇用者の世帯数はどのくらいか

 

確かに、非正規雇用者である男性を、単純に低所得者層と同義にしてしまうのは、拙速である。働き方が多様化している現代社会において、フリーランスであるが正規雇用従事者と比して、高所得である人も珍しくはない。また、女性の社会進出が進み、パートナーである男性が非正規雇用であったり所得が低い場合でも、女性が正規雇用者で一定以上の所得があれば、世帯収入としては経済的に問題とならないケースも増加している。その典型例は、専業主夫であろう。

しかしながら、こうした事例は少数である。やはり、非正規雇用者の所得は総じて低い。そこで、ここでは、夫婦共働き世帯を取り上げ、その中から、夫婦ともに非正規雇用である世帯数を推計する。つまり、結婚が所得水準の上昇につながらないケースの算出である。

 

夫婦ともに非正規雇用の世帯は約100万世帯

 

具体的な夫婦の就業形態は、2014年のデータによると次のようになる。夫がフルタイム、妻がパートタイムで働いている世帯数は、495万世帯である。夫婦ともにフルタイム就業という世帯数は、390万世帯である。夫婦ともにパートタイムである世帯数は、約100万世帯である。その他、夫がパートタイム・妻がフルタイムという世帯も若干存在する。

さて、年齢を度外視すると、単純計算で、約100万人の既婚男性が非正規雇用者として働いている。この100万人の中に、2030歳代はどれくらいいるのだろうか。既婚者の場合、男性が世帯主となっているケースが多い。よって、非正規雇用者男性100万人は、おおむね、男性であると推定される。そこで、世帯数をもとにした推計と既婚者数をもとにした推計の2つを算出した。

まず、世帯数を軸とした試算である。この試算では、2030歳代の夫婦で構成された世帯数は、おおよそ26.3万世帯となる。推計方法は次のとおりである。2064歳の既婚男性の総数は、おおよそ1,983万人である。そのうち、2039歳の既婚者は約522万人で、総数に占める割合は26.3%である。夫婦ともパートタイムである世帯は約100万世帯であるから、2039歳の夫婦で構成された世帯は、100万世帯の26.3%、すなわち約26.3万世帯と推計される。

次に、既婚者数を軸とした試算である。この試算では、非正規雇用に従事している2030歳代の既婚男性は、約52万人となる。推計方法は次のとおりである。2064歳の既婚男性の総数は、およそ1,983万人であるのは先述のとおりである。夫婦ともに就業している世帯数は約1,000万世帯、そのうち、約100万世帯が夫婦ともにパートタイムで就業している世帯である。1,983万人のうちの10%の世帯に属する男性、すなわち198万人の男性が、パートタイムとして働いている計算になる。また、2030歳代の既婚男性は、既婚者全体の26.3%である。これらを踏まえると、198万人の26.3%、おおよそ52万人が、2030歳代で非正規雇用に従事する既婚男性の人数となる。世帯の総数と就業形態別の世帯数別割合は、2007年以降大きく変化していない。したがって、ここで行っている推計および基礎となるデータについて、タイムラグによる変化の影響は少なく、現在の状況を把握するうえでの参照には、差し支えがないと思われる。

3-6 考察①:年収400万円未満や非正規雇用でも既婚・恋人あり男性は結構いる

考察①:年収400万円未満や非正規雇用である既婚・恋人あり男性は結構いる

 

 本章で説明してきたことを簡単にまとめると、以下のとおりである。

年収400万円未満の既婚もしくは恋人がいる30歳代男性の人数は、約259万人と推計される。これを所得階層に応じた既婚・恋人ありの人数の割合でみると、30歳代の既婚・恋人あり男性は、約75%が年収400万円未満であることになる。実に、4人に3人が、「年収400万円の壁」以下の所得水準にあることが推定される。

正規雇用者として就業している2030歳代の既婚男性の人数は、労働力人口をもとにした推計では約50万人にのぼる。同じように、共働き夫婦世帯をもとにした推計によると、世帯数からの試算では約26万人、既婚者数からの試算では約52万人となる。

こうした推計や試算から言えることは、年収が400万円に満たない場合でも、既婚者や恋人がいる男性は、比較的多いということである。具体的には、そうした男性は、少なく見積もっても約50万人いる。これを多いと感じるか否かは、個々人の主観や判断基準・理由等によるだろうが、私自身は、これを多数だと考える。

人数の多少を比較する為に参考例を示してみる。例えば、東京都江東区の人口は約50万人であり、鳥取県の人口は約57万人である。しばしば論じられる社会問題に目を向けると「ひきこもり(若者無業者)」の総数は約56万人だとされている。保育所問題での待機児童数は、平成29年度で2.4万人(暫定値)である。日本人最大の死因は癌であるが、癌による年間の死亡者は、37万人超である。交通事故の年間発生件数は、約38万件(よって被害者・加害者ともに最低38万人いることになる)である。もちろん、列挙した例示には何ら整合性はない。だが、非常に単純ではあるが、こうした人数と比較してみると、50万人という人数は、少数派でも例外的存在でもないことがわかる。